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ダイキアクシスとコーポレートガバナンス
―法律家としての視点から―
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2019年、ダイキアクシスは監査等委員会設置会社に移行しました。同委員会設置に伴い、当社社外取締役に就任し、現在委員長を務める弁護士の髙橋祥子氏に、ダイキアクシスグループにおけるコーポレートガバナンスについて監査等委員会の取り組みを中心にお話を伺いました。

 

監査等委員会について
監査等委員会について「統合報告書」を見る

 

 

 

 

 

監査等委員会設置会社とは

 

社外取締役に就任された経緯から教えてください。

髙橋:当社が監査等委員会設置会社になるタイミングで、社外取締役の出縄取締役からの紹介で就任しました。監査等委員会設置会社は、ある程度、執行部側に取締役会の権限を委任することで経営の機動性が高まる制度でもあります。他方で、社外からの様々な視点での助言等を通じて取締役会の監督機能を充実させることも必要となります。
おそらく当社においても当時、今後そういった迅速な意思決定(業務執行機能)と監督機能とを上手く両立させられる制度が必要だと大亀裕社長が判断され、私も含めて監査等委員としての社外取締役が選任されることとなったのだと思います。

 

監査等委員会設置会社とはどのような制度ですか。

髙橋:従来の監査役会に代わって、取締役3名以上で構成される監査等委員会が取締役の職務執行を監査する役割を担うものです。2015年の会社法改正によって導入されました。コーポレートガバナンスを強化する観点から、その過半数は社外取締役でなければならないと規定されています。

 

就任後、どのようなことに取り組まれてきましたか。

髙橋:制度が変わったということは従前の監査役会の制度とは違うことを求められているのだと思います。法律上の制度自体もできたばかりでしたので、監査等委員会としてこれからどう取り組んでいきましょうかというところから始めました。
まず現状を知らなくては課題も分からないので、数カ月に1回(最近はほぼ毎月)、個別に各部門のヒアリングをしていきました。ヒアリングでは、各部門の方々がご自身でつくっている基本方針などがあるので、現状で達成できているところ、できていないところ、あるいはそれ以外に現場として考えている課題などをお聞きしていきました。

 

ヒアリングをされる中で、課題はありましたか。

髙橋:何か課題があればその時々において監査等委員会を通じてお伝えしてきています。今はやはり、コンプライアンス推進室の設置なども含めて、会社組織内部としても動き始めたところですので、このまま一つ一つ、問題が出てきた時に対応できる体制をしっかりとつくり上げていくことを続けていただきたいと思っています。

 

 

ダイキアクシスとコーポレートガバナンス

 

当社のコーポレートガバナンス体制について、率直なご意見をお聞かせください。

髙橋:これは当社だけではなく他の上場企業でもそうだと思うのですが、制度としてはあるけれども十分に機能していないということが少なからずあると思います。当社の場合、そもそも総合リスク対策委員会と内部監査室と他にもコンプライアンス関係の委員会があったのですが、それぞれの関係や実施状況がよく分からなかったので、どうなっていますかというお話はさせていただきました。今はコンプライアンス関係については、新たに設置されたコンプライアンス推進室も含め、どんどん堀淵副社長を中心とした組織立った形になってきている感覚はあります。

 

監査等委員会からの働きかけもあり、さまざまな会議体が動き始めました。

髙橋:ディスカッションする場を設けますと定めたからにはやらなくてはならないし、明示的な定めがなくても、誰か特定の人だけが決めるよりも、いろいろな意見を取り入れてディスカッションする場をつくること自体が重要だと私は考えているので、そのような制度的、組織的なものができたことがまずは第一歩だと考えています。

 

 今後、コーポレートガバナンスの充実に向けて留意すべき点はありますか。

髙橋:やはりいろいろな人が議論する場も必要ですし、建設的かつ実効性のある議論のためにそこに必要かつ適切な情報を提供いただくことも必要だと思います。本体についてはある程度分かっていても、そこから先、特に海外やM&Aを実施した子会社などになるとどうしても情報不足で分からないということがあります。ディスカッションをするための前提となる情報共有は、足りなければ個別に聞いていますが、しっかり提供いただくことが留意すべき点かと思います。

 

2023年には委員長に就任されました。新体制での取り組みに期待します。

髙橋:現在、監査等委員会は社外取締役3名で構成されていますが、本来的には常勤で日々会社に関する情報を得ることができ、迅速な対応も可能な監査等委員が委員長になったほうがいいと思っています。ちょうど今年から新任の監査等委員の方が常勤になりましたので、その方への橋渡し役としてお引き受けしました。今後は工場など含めて現場にもっと足を運びたいと思っています。非常勤ではなかなか行けない場合もありますので、その辺りも常勤の方にお願いしているところです。

 

 

 

今後の方針等がありましたらお聞かせください。

髙橋:今は会社組織として少しずつ変わってきているところで、変わってきているということは執行部もすでに課題自体は認識していて、それを解決するためにどうやって組織的に組み立てていくか、つくった制度をどう実行していくかというところにあるのだと理解しています。監査等委員会としては、せっかくつくった制度が放置されたりしないように、あるいはできたものがもっと発展的に利用できるようにモニタリングをしていきたいと思います。
他方で、会社の規模・リソースの観点や会社の文化の観点も必要で、それらにも合わせつつ、投資家の方々も納得いただけるよう、どちらかに行き過ぎることなく、ちょうどいいところを見つけられるよう日々確認・検証していきたいと思っています。

 

 

初の女性取締役として

 

髙橋さんは当社初の女性取締役でもあります。当社の印象をお聞かせください。

髙橋:取締役会は、他の会社と比べてもかなり活発な議論が行われている印象です。会社によっては、社長が強すぎるとピリピリして他の人は何も言えないということもあるのですが、当社はそんなことは全然なく、社外取締役もいろいろな意見を発言されています。一方、女性取締役は私も含めて社外取締役2名だけですので、将来的にはやはり内部から女性の取締役が現れるのが本来的な多様性という意味ではより望ましいのかなと思います。

 

 女性取締役が入ることで取締役会の雰囲気も変わったのではないでしょうか。

髙橋:会議の場で本当はよく分かっていないけれどもスルーしてしまうことがあるでしょう。いろいろ議論はしているけれども、そもそもこの文言の意味は何ですかという時に、もしかしたら、社外でかつ女性のほうが「すみません、ちょっとよく分からないのですが」と聞きやすいのはあるかもしれませんし、他の会社でもそのような話を聞いたことはあります。
ただ、当社では、大亀社長をはじめ、女性だから男性だからということではなく、社外取締役からの質問に対しては誠実にご回答いただいており、それを許容する懐の広さのようなものを感じます。せっかくのディスカッションの場なので、皆が同じような情報を持った上で議論したほうが絶対にいいと思うので、質問も意見も忖度なくできるのは当社の良さだと思います。

 

 

「PROTECT×CHANGE」実現のために

 

最後に「PROTECT×CHANGE」について、提言などあればお願いします。

髙橋:先日、社員の方から自分は何をPROTECTして何をCHANGEするのかをプレゼンいただく機会があったのですが、あれはすごくいい取り組みだと思いました。「守るべきものは守り、変えるべきものは変える」という時の、何を守るべきで、変えるべきはどこなのかは、現場にいらっしゃる従業員の方々が一番気付くことができるものだと思うのです。
実際にそれが変えるべきものなのかどうかの判断は執行部の方がされるわけですが、外からはすぐには見えない、内部からの情報を吸い上げていく機会があることはガバナンスの観点からも重要だと思いますので、ぜひ継続していただきたいと思います。

 

 


髙橋 祥子

社外取締役(監査等委員)/監査等委員会委員長

2006年弁護士登録、2013年よりスプリング法律事務所パートナー弁護士。M&A、コーポレートガバナンス、IT、知的財産、契約法務、労働案件対応など、企業法務の豊富な経験と幅広い見識をもつ一方、業務分野を限定することはせず、離婚・遺産分割等の家事事件、一般民事事件をはじめ、一般社団法人の事務局、その他プロボノ活動にも従事し、多岐にわたる社会的ニーズに応えている。一般社団法人キネコ・フィルム監事。趣味は山登りと三味線。神楽坂のお師匠さんに師事し小唄をたしなみ、休日は家族や友人と登山・キャンプを楽しむ。
(2023年9月現在)