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この人に聞く:Rio WAZA
インドモデルはどう確立されたか[後編]
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前回に続き、インドにおける排水処理事業についてお伝えします。2025年に向けて当社グループにおける海外展開の最大ミッションと位置付けられるインド事業。「クリーン・インディア」を掲げるモディ政権のもと、インド市場の開拓に最前線で携わってきた和座統括部長に聞くインタビュー後編です。

 

 

ダイキアクシス、インド市場を開拓する

 

前回08では、インド市場の現況と今後の展望を中心にお話を伺いました。今回は市場開拓ストーリーの詳細を伺いたいと思います。インド進出当時の様子から教えてください。

和座:コンサルタントとして市場調査をしていた段階で、インド政府に浄化槽を寄贈し、公園トイレなどへの設置や工場でのテストマーケティングを完了していました。そこで第1段階としては「まず売ってみよう」と直接エンドユーザーの開拓に取り組みました。
当時、浄化槽はインドネシアや日本からの輸入でしたので、輸送コストを考えて海に近い東部のチェンナイ近郊、西部のムンバイ近郊の2カ所にエリアを絞り込み、また国内事業部へのヒアリングをもとにホテル、ショッピングモール、ケアホスピタルにターゲット分野を絞り込み、エリア内のすべての施設をリストアップしてコンタクトしていきました。

 

 

エンドユーザーの反応はどうでしたか。

和座:厳しかったです。インドは地域での結びつきが非常に強いので、日本人がエンドユーザーに営業に行ったところで、製品に興味は持ってもらえても最終的な販売にはつながらない現状が見えてきました。そこで第2段階では、ターゲットエリアの中に小さい代理店をつくろうと考え、地域に根差した工務店や建設会社にコンタクトをしていきました。

 

そこから代理店方式での市場開拓がスタートしたのですね。

和座:ただ、代理店づくりも、例えば自動車を売っている会社に二輪車の代理店になってもらうのと、工務店に浄化槽の代理店になってもらうのとでは全く異なります。浄化槽は市場にまだ存在を知られていない製品なのです。例えば「浄化槽」という単語をそのまま翻訳すると「septic tank」という、日本では戦後から1960年代までしか流通していないような初期的な汚水処理製品を指す言葉になってしまいます。市場がないところに代理店をつくっていくという、今まで経験したことのない活動でした。

 

 

市場のないところに代理店をつくる

 

代理店にはどのように営業していったのですか。

和座:代理店と一緒にお客さまのところへ行き、実際に営業活動を見せ、どうやって売るかを代理店に分かってもらうための営業をしていきました。製品については現地を見せて説明すればある程度は理解してもらえるのですが、最終的にエンドユーザーがどう反応するかは私自身も経験がなかったので、彼らと一緒に製品を売るところから始めました。

 

 

まさに最前線の営業ですね。その後、代理店は順調に増えていきましたか。

和座:1年ほど地域に1つ2つの小さい代理店づくりを進めていましたが、次第にその規模の会社では資金繰りが難しくなることが分かってきました。輸入物は輸入した時点で先払いをしなくてはなりませんが、エンドユーザーからお金を受け取るのは工事が終わってからになります。あまり小さい代理店ではそこがネックになってきました。
そこで第3段階では、もう少し規模の大きい代理店をつくることにしました。それが2019年ごろからで、現在もそれに近い形で活動しています。

 

大きい代理店というと、どのような会社になりますか。

和座:売上が100~200億円ぐらい、1つの州を任せられるぐらいの中規模の建設会社、工務店、ポンプ会社などです。そうなると地域でも名前の通った会社になってくるので、交渉ごとも一筋縄ではいきません。価格や契約条件などさまざまな交渉をしながら、州に1つ、もしくは都市に1つの代理店づくりを継続して行っているところです。

 

 

インド政府との1年がかりの交渉

 

市場開拓と同時に、浄化槽普及のためには国による法整備や規制も不可欠だと伺いました。政府への働きかけはどのように進めてきましたか。

和座:インドには大規模な集中汚水処理のルールはありましたが、浄化槽のような小規模の汚水処理のルールがありませんでした。そこでまず地域や個々の家庭で汚水処理を行う分散型排水処理の規制をつくってもらうよう中央政府に働きかけました。
次に働きかけたのが、中央政府の推奨です。政府推奨の処理方式には5つありましたが、浄化槽はそれらのコンビネーションのため、地域によっては推奨に値するものとして見なしてもらえないことがありました。そこで中央政府の認証を取得し、政府推奨リストの6つ目に「Johkasou-STP」という言葉を加えてもらいました。

 

 

中央政府へはどのようにアプローチしたのですか。

和座:インドは文化的にトップダウンが強い国なので、実際にコンタクトしたいのは局長や事務次官であっても、まずトップの大臣まで行かなくてはなりません。大臣から「その話は進めろ」と言ってもらって初めてターゲットに届くのです。前職の経験からどうすれば大臣にアポイントを取れるかは分かっていたので、環境大臣、水大臣に果敢にアタックしていきました。最初は本当に2~3分しか時間をもらえません。その短時間で「こいつの言うことは有用だ」と思ってもらえるよう、気合いを入れて臨みました。

 

インドではモディ政権のもと「クリーン・インディア政策」が進められています。すぐに関心を持ってもらえましたか。

和座:クリーン・インディアは環境をきれいにというより、トイレをつくろう運動なのです。日本人からすれば「トイレをつくったら次は汚水処理ですよね」というのが当たり前ですが、当時はどんなに説明をしてもそこまで話が進みませんでした。
ただ、各大臣にアポイントを取ることはできたので「今こうやってトイレを設置することはいいことだけれども、その後に汚水の問題が必ず起きます。その時に全国に下水道を張り巡らせるよりも、浄化槽を地域ごと、施設ごとに設置する分散処理として、汚い水が出た所できれいにする“Treat at site, Reuse at site”というコンセプトを日本人が必死に言っていたことを覚えておいてください」と言って回りました。
1年後、環境省と水省と住宅省それぞれの大臣秘書から連絡があり「あの話をもう一度聞かせてくれ」と。そこから2020年の政府認証までつながっていきました。

 

 

インドと日本、異なるビジネス文化の中で

 

コンサル時代も含めてインドビジネスに長く携わっている和座さんですが、特に苦労されたことや印象深い出来事などがあれば教えてください。

和座:浄化槽の事業を通じてより深くインドに関わるようになって実感したことは、信頼関係とお金のバランスの難しさです。お互いにすごく信頼関係を築けていると思っていても、ある日、突然裁判所から訴状が届き、代理店や社員から訴えられたことがありました。
いずれもお金の問題です。日本では目先のお金を取って信頼関係を損なう行為は良くないと考えますが、インドでは目の前のお金が第一で、信頼関係はまた別のところで築けばいいと考えるのです。話には聞いていたのですが、実際に体験してインドの難しさを感じました。

 

日本とはビジネス感覚や文化が異なるのですね。

和座:良かったことは、そういった問題が法人設立から3~4年目に起きたため、会社の中の組織づくりや代理店との契約書の内容などをより強固に取り組む機会になりました。仮にこれが10年目、15年目だと金額もより大きく複雑な問題になっていたと思うので、比較的早いタイミングで経験できたことは今後の成長の基礎構築のためにも良かったと思います。

 

 

「PROTECT×CHANGE」実現のために

 

最後に「PROTECT×CHANGE」の実現に向けて、前回は社外に向けての目標を伺いましたが、今回は社内においての目標をお聞かせください。

和座:2025年までの3年間でしっかりと売れる体制づくりをしていきたいと考えています。今は営業と生産とサポートチームの3チームに分かれていますが、スピード感をもって外に対応していくためには、社内、そしてチーム内をより円滑化させる必要があります。
そのためには、意見交換や情報交換ではなく、営業と生産がワンチームになって動いていくべき時期に来ていると感じています。インドおよび海外事業は国内に比べてはるかにコンパクトな組織なので、それが可能だと思っています。

 

 

 

 

和座 良太
海外事業統括本部 海外営業統括部長
兼 海外営業部長

インド専門コンサルティング会社にて、日本とインドの架け橋となるべく両国を駆けまわる中、ダイキアクシスに出会う。市場参入に向けて2018年4月入社。以来インド事業のすべてに最前線で携わる。海外営業統括部、インド事業部長を経て現職。1年のほとんどをインドで過ごす。