

聞き手(以下Q):2025年を初年度とする新たな中期経営計画が策定されました。その狙いからお聞かせください。
大亀:2つ軸があります。一つは、これまで進めてきた中期経営計画(以下、前中計)の数字的なところで、計画策定時と現状では外部環境の変動などにより乖離(かいり)があったことから、その練り直しを図ったものです。もう一つは、私自身も昨年社長に就任し、中長期的に経営計画を考える中で、その方向性を示す必要性があると考えていました。そこで昨年、前中計の目標売上を1年前倒しで達成したことから、新年度をスタートするにあたり新体制による新たなスタートを切る意味でも、数値目標の修正だけではなく新しい中期経営計画として打ち出すことにしました。

Q:その方向性を示すものとして、新中計では「日本の安全安心を、世界の日常に」をメインテーマとしています。このテーマに込めた思いをお聞かせください。
大亀:当社グループは、創業者が愛媛で、田舎のトイレ環境、住環境を良くしたいという強い信念を持って起業し、その後、多くの先人たちが縁の下の力持ちとして水インフラと住環境の整備に取り組んできました。高度経済成長期を経て、人々の求めるものが安全安心から快適さ、さらにはサステイナブルへと変化していく中で、現在は再エネ分野などの新規事業領域にも挑戦しているところです。
それらの事業を私たちの強みとした時に、市場環境を見てみると、国内市場は人口減少などにより需要が頭打ちになっていく一方、当社が十数年前から進出している海外市場は成長性のかなり高い地域に事業を展開しています。そのような中、私たちが半世紀以上にわたって国内市場で培ってきた日本の公衆衛生技術を、求められる場所でしっかりと現地に根付かせ、安全安心な世界を実現することが当社グループの社会的使命であると考え、それを「世界の日常にしよう」というメッセージに込めました。
Q:新体制によるスタートというお話もありました。今回の新中計を中長期的にはどのように位置付けていますか。
大亀:この3年間(2025-2027)が、変革の3年になると位置付けています。中長期的には、2030年を一つ目安にしたいと考えています。持続可能な社会の実現に向けて、当社の社会的使命や目指す姿をあらためて今回の中計で示しましたので、その実現に向けて変革の起点となる3年間にしたいと考えています。
Q:その変革の3年間で、特に注力したいポイントはありますか。
大亀:組織戦略、事業戦略、人事戦略、全てです。経営戦略の方向性は前中計と大きくは変わりませんが、役員や幹部の世代交代も含め、組織体制は大きく変えていく考えです。また、これまで環境、住宅、再エネという個別最適な事業部組織で各事業を進めてきましたが、今後はより事業間の連携も必要ですし、そもそも事業部に分かれる必要があるのかといったところから組織戦略も変わってきます。会社のルールや仕組みも変えていく必要があります。

Q:それら全ての変革のベクトルが、新中計で示された目指す姿「グローバルな水ビジネスプレーヤー」に向かっていくということでしょうか。
大亀:さらに言えば、その先にある本格的なグローバル企業へのシフトです。国内の有力事業をベースに海外展開もしているといったインターナショナル企業ではなく、真の意味でのグローバル企業を目指していきます。そのためには、従来のような国内と海外といった区分けではなく、地球全体を当社の事業の市場であると考え、まずはグローバル戦略があり、その一部として日本戦略があるという形に変えていく必要があります。そのための事業戦略であり、組織戦略であると捉えています。
Q:さらに新中計では、各事業が連携し、グローバルレベルでのシナジーを創出する「シナジー型経営モデル」への転換が打ち出されています。実際に組織改編を行いますか。
大亀:ゆくゆくは組織的にも変わっていく可能性はありますが、まず変革していくこととしては意識です。事業間の連携はこれまでにも支店単位などで行われていましたが、戦略的には取り組んできませんでした。同じ事業部でも商材ごとに縦割りがある中で、そこをどう連携していくかを考えた時に、お互いの事業についてあまり理解していない現状が見えてきました。組織間の人事交流もなく、ラフなところではコロナ禍以降、懇親会などのイベントも減り、他部署との関係性が希薄になってきているので、そこから変えていかなければと思います。

Q:戦略的にはどういったところに取り組んでいきますか。
大亀:それがおそらく人事戦略に紐付いてくるのだと思います。例えば評価制度でいうと、行動特性によるコンピテンシー評価を一部採用していますが、今はスタッフ、リーダー、マネジャーという3つの大きな等級の分類で、全職種が統一の評価基準になっている部分に課題を感じています。実務として各等級における求める役割や能力を再定義し、社員一人ひとりが自分の役割を言語化し、成長できる環境づくりが必要であると考えています。
人事戦略をブラッシュアップし、組織戦略や経営戦略の土台づくりを行います。
Q:今回、初の試みとして、新中計をテーマにタウンホールミーティングが実施されました。この狙いと手応えをお聞かせください。
大亀:これまで経営層として中期経営計画を各社員がより理解し実行に移していけるような落とし込みの努力が不足していた部分がありました。もちろん上場企業として対外的に発信していくことに注力はしていますが、それだけになってしまわないように、社内に対してもより丁寧に説明し、実務につながるような動きをしたいと考えました。
今回、全国の各拠点で2カ月間にわたって27回のタウンホールミーティングを実施し、373名の社員に参加してもらいました。対象者は若手と中堅の皆さんです。私からの説明だけではなく、対話の場も設け、205名の方から中計への質問や経営に対する質問、意見、提言等を頂きました。経営を自分事として考えてもらうことができ、私としても普段接する機会のない皆さんの声を聞くことで現場感を把握することができたと感じています。

Q:具体的に見えてきた課題などはありますか。
大亀:先ほどの組織間の人事交流もそうですし、利益管理などデータ管理の精度についての意見もありました。これは価格設定や営業管理はもちろん、事業の選択と集中という経営戦略においてもベースになる部分ですので、大きく受け止めています。その他、事業部をまたいだキャリア形成についてなど、いろいろな意見を頂き課題を抽出しているところです。
また意見箱として設置した「目安箱」にも150件ほどの意見が寄せられています。その中でもう少し詳しく聞いてみたいと思ったテーマについて、10人くらいのチームで話し合うラウンドテーブルを現在実施しています。さまざまな提言を受けた責任を持って、私自身が行動で示していくことで、皆さんから共感や納得感が得られる経営を実践していきます。
Q:最後に、新中計の実現に向けて社員の皆さんへのメッセージをお願いします。
大亀:シナジーを生み出すのは大きな組織や事業連携だけではありません。皆さん一人ひとりがプロフェッショナルとして自身を磨き、日々の業務の中で連携を意識することで、チームとしての相乗効果を発揮していってもらえればと思います。
目標は大きくグローバルレベルでのシナジー創出です。日本の安全安心を世界の日常にするために、プロフェッショナルなチームを目指し、変革を進めていきましょう!


大⻲ 裕貴
代表取締役社長CEO
愛媛県松山市出身。高校時代、ボランティアトリップで訪れたアフリカ・ザンビアの暮らしに衝撃を受け、途上国の環境問題、社会貢献への関心を深める。大学卒業後、総合電機メーカー勤務を経て2018年ダイキアクシス入社。グローバル事業本部、常務執行役員兼社長室長、専務取締役CIO・CGOを経て2024年1月より代表取締役社長に就任。
2023年早稲田大学大学院経営管理研究科修士課程(MBA)修了
(2025年9月現在)