DAIKI AXIS INTEGRATED REPORT2024
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早稲田大学 総合研究機構国際ファミリービジネス総合研究所 招聘研究株式会社ダイキアクシス代表取締役社長 SPECIAL対談米田隆員氏大亀裕貴−スチュワードシップを体現する−ファミリービジネスとは何か 「無形資産」という強み−はじめに−一族経営はなぜ「弱点」にもなるのか−ざんごう塹壕に入るべからずDAIKI AXIS INTEGRATED REPORT | 09大亀 本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。米田先生はWBS(早稲田大学ビジネススクール)の恩師の一人であり、ファミリービジネスをはじめ、資産形成、キャリア形成、人生をどう過ごしていくかなど、幅広くご教授いただきました。その学びを今後の企業経営に活かしていきたいと考えています。よろしくお願いします。米田先生 社長ご就任おめでとうございます。私は2023年9月まで、早稲田大学の教授としてビジネススクールにおいてファミリービジネスを教えてきました。客員教授時代も含めて10年間、講義してきた中で、裕貴社長は際立って優秀な受講者の一人でした。今回、本対談にお呼びいただいたことを大変光栄に思っています。大亀 「ファミリービジネス」の定義は複数存在しますが、一般には、いわゆる同族企業−創業家一族が所有も経営も行う企業を指すことが多いと思います。当社は上場企業ですが、ファミリー企業の要素も持ち合わせているため、これに当たります。米田 所有と経営の一致はファミリー企業の強みの源泉です。その強みは、長期経営、果断な意思決定、企業文化の維持などに表れていますが、それは理念を持った創業株主がいるからこそ実現できることなのです。例えば、世界で初めてアルツハイマー病治療薬の創薬に成功したエーザイ㈱には、内藤一族という創業株主がいます。世界が長い間競争しながら困難だった治療薬を開発できた裏には、patient capital(忍耐強い資本)を支える創業株主がいて、超長期の経営を行い、戦略の持続的な実行を担保してきたことがあります。大亀 ファミリービジネスは経済的な利益だけではなく、非経済的な社会的情緒資産の維持という、無形資産の獲得に価値を見いだすことも一般投資家や経営者とは異なる特徴です。またそれを目指すことによって、有形資産そのものも増大させることができるという点が非常に学びになりました。米田 2019年にハーバード・ビジネス・スクールが提唱した「インパクト加重会計」は、伝統的な財務会計に基づく企業価値だけでなく、企業が生み出した社会へのインパクト(=社会価値)も貨幣評価した上で、両者を併せて企業の社会にもたらす価値を総合的に評価すべきだという先進的な考え方です。有力なファミリービジネスは、そういった新しい資本主義の時代をむしろ先取りしていることから、今、世界的に注目されています。大亀 一方で、所有と経営の一致という本来の強みが逆に出ると、独断的経営や身内びいきといった弊害になることもあります。組織やファミリーとしてのガバナンスを効かせながら、事業承継や事業成長につなげていくことが大事だと思っています。米田 私物化による暴走や高齢経営者が経営にしがみついて経営革新が遅れるといった弱さは、非上場のファミリー企業において、典型的に出る弊害です。上場会社である貴社は資本市場が規律を与えるため、その点は一定のコントロールができていると思います。大亀 また同族間で家族であり、社員であり、経営者であるという関係は、距離が近いからこそ感情的になりやすく、お家騒動的な問題に発展するリスクもあると思っています。当社も創業者と2代目である現会長は、時には激しく対立することもあったそうです。 現会長はそれらの経験も踏まえて、経営スタイルを変え、ファミリーガバナンスにおいても家族間の関係を重視し、家族全員で過ごす時間をとても大切にしています。私は米田先生ご家族の仲の良さも知っていますが、教育や一族の関係を大事にすることは、ファミリー企業の弱点を克服する上でも重要な要素であると考えています。米田 そういった観点からも、今回、裕貴社長のような若い後継者が代表取締役に就任されたことは、貴社の経営革新に向けて非常にポジティブな要素だと感じています。経営承継にあたり、実質創業者と言える大亀会長から、その非経済的な社会的情緒資産をいかに引き継いでいくかが、今後の貴社の成長につながると考えています。−ファミリービジネスの存在意義米田 その時に最も大切なのが「スチュワードシップ」という概念です。世界的なラグジュアリーブランドを担うフランスのエルメス社の6代目当主アクセル・デュマ氏はこう言っています。−「私たちは父親の世代から一族事業を相続したわけではない。子どもの世代から預かっているに過ぎない」 これは私の恩師であるIMD(スイス国際経営開発研究所)の名誉教授シュワス博士から教わった言葉です。ファミリービジネスとして本来あるべき経営の永続化というミッションを達成するためには、「継承した事業は自分のものではない」と考えることが必要で、経営者にとって重要な経営の規律になります。大亀 この言葉は非常に大きな学びでした。私自身も父親から事業を継いだという考えもあった中で、幅広いステークホルダーを思いながら、将来世代のために今どう取り組むかを考えることが私の役割なのだと、米田先生からこの言葉を教わった時、すっと腑に落ちました。大亀 ファミリービジネスの永続化がもたらす価値の一つに「地域への貢献」があります。私は学生時代まで愛媛県外で過ごしていましたが、入社以来、愛媛で過ごす時間が増え、地元経営者の方々とのネットワークも増えてきました。その中で、やはり地域にはファミリー系の経営者の方が多く、雇用創出や地域活性化も含めて、ファミリービジネスの担う役割、重要性は非常に大きいと感じています。米田 特に貴社は地域において数少ない上場会社です。上場すると、資本市場からお金を集めることができると同時に、バランスシートが何重にもチェックされます。さまざまな立場の人から注目されている中で生き残っているということは、企業としての健全性を示しています。 上場会社には、資金調達だけではなく、地域に新しいビジネスを呼び込み実現する力があります。創業株主でもある経営者は、そうした上場会社が本来果たすべき役割を担う責任があります。これこそ本来の上場しているファミリー企業の強さです。だからこそ、貴社のような企業が地域の再生において、中核的な役割を担うことが大事なのです。米田 日本の上場会社のうち、ファミリー系企業は50%強であり、これらの会社の約80%が保守的な経営に偏重していると批判を受けています。これを「エントレンチメント(Entrenchment)」といい、塹壕に入っているような保身的な企業運営を指します。大亀 PBR(株価純資産倍率)1倍割れという言葉も注目ダイキアクシスグループを知るINTERVIEWダイキアクシスとファミリービジネスの今長年にわたって築き上げてきた「無形価値」を承継し、今の時代に再定義しながらイノベーションにつなげていく

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